「政策に科学的なデータはどの程度必要か?」って話について(2回目)

本題―政策の種類による根拠の必要性の違い―

さて,今回はざっくりとやってしまいます。まず,行政が取り扱う政策には色々な性質のものがあります。分類としては,「給付行政-規制行政」っていうのがあります。*1
で,さっそく結論ですが,給付行政の場合は根拠は特に必要ないが,規制行政の場合は根拠が必要(もしくは,少なくとも根拠があった方がよい)。ってことになるかと。もちろん,その「根拠」がどの程度信頼できるものなのかはまた別の話ですが。
で,給付行政でも規制行政でもないような,まちづくりとか産業活性化みたいなやつは,強いて言えばシミュレーション*2とかが根拠になるのかなぁと。
さらには,上の分類にあてはまるかどうかは関係なく,ただ単にロジックを並べ立てるだけでよしとされる政策もありますね。以下,その事例です。(もはやネタですよ…)

子どもの読書活動の推進に関する法律(平成十三年十二月十二日法律第百五十四号)


第一条(目的)  この法律は、子どもの読書活動の推進に関し、基本理念を定め、並びに国及び地方公共団体の責務等を明らかにするとともに、子どもの読書活動の推進に関する必要な事項を定めることにより、子どもの読書活動の推進に関する施策を総合的かつ計画的に推進し、もって子どもの健やかな成長に資することを目的とする。


第二条(基本理念)  子ども(おおむね十八歳以下の者をいう。以下同じ。)の読書活動は、子どもが、言葉を学び、感性を磨き、表現力を高め、創造力を豊かなものにし、人生をより深く生きる力を身に付けていく上で欠くことのできないものであることにかんがみ、すべての子どもがあらゆる機会とあらゆる場所において自主的に読書活動を行うことができるよう、積極的にそのための環境の整備が推進されなければならない。


第六条(保護者の役割)  父母その他の保護者は、子どもの読書活動の機会の充実及び読書活動の習慣化に積極的な役割を果たすものとする。


*なお,強調は引用者による。また,条文の全文はhttp://law.e-gov.go.jp/fs/cgi-bin/strsearch.cgiで検索してください。

えぇと…感想としては,「理念だけを見ると反対しづらいけれど,その理念ってのは裏づけが全くなされていない上に,わざわざこれを法律として制定する必要性は一体どこにあるんだかさっぱり理解できない。しかも,この法律があっても特に害は無いだろうが,政府に余計な負担をかけているだけではないのか。」と思う次第であります。
この法律がないと図書館の整備をする法的根拠がなくなってしまうがゆえに,「法律に基づく行政」の原則から逸脱してしまうというのであればこの法律も必要かも知れないとは思うんですが,「図書館法」や「学校図書館法」っていうのが既にあるんですよ。というわけで,これこそある意味で文化的保守の価値観を代弁するためだけに制定されたあまり存在価値がない法律だよなぁと思うわけです。いや,別に有害無益だと斬って捨てるつもりは無いですが。いや,やっぱ強めに言えば有害なんですが。
というわけで,申し訳程度の内容の薄いエントリですがこれで失礼。

前回のエントリの補足

えー,この前は科学的な根拠が無かったがためにある施策を終了させた事例として「乳幼児期のがん検診」を挙げましたが,念のためフォローをしておきます。以下,獨協医科大学越谷病院教授(小児外科)池田均氏による文章です。

小児がんの一つ、神経芽腫の早期発見をめざす集団検査(マススクリーニング)は、生後6カ月の乳児を対象に全国規模で実施されています。厚生行政の一環として85年から続いていますが、予期せぬ問題が明らかになってきました。
集団検査の開始以降、神経芽腫の患者が大幅に増加し、その多くは悪性腫瘍としての治療を必要としないと考えられることです。神経芽腫には自然に腫瘍が消えたり、良性腫瘍に変化したりする性質があります。また、異常なしと判定されても1歳過ぎに悪性度の高い神経芽腫を発症することがあるのです。
現行の集団検査は、信頼性の低いものと言わざるを得ません。
02年、北米とドイツの研究グループが相次いで、集団検査をしても神経芽腫による死亡率は改善しないと発表しました。期待された効果がないということです。
http://www.dokkyomed.ac.jp/dep-k/ped_surg/texts/T_nbscr.htmより

*1:これは行政法での分類です(多分)。いや,手元に教科書が無いもんで…。

*2:イメージとしては,「これだけ投資したら○億円の経済効果がある!」みたいな感じですかね。